枕草子~さかしきもの~


―智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい―

夏目漱石が書いた『草枕』の名文句です。

道理を通しても、感情に流されても、意地を張っても、何にしても人の世は生きにくい、ということでしょう。

前にも書いた通り、出家したいと思っていたのですが、それも人の世はメンドクサイからです。

もっとも、自分の場合「智に働く」ことはほとんどありませんが(笑)

例えば、人を褒める難しさ、というのは古文でも語られることがありますが、

格下の者が格上の者を褒めるのは細心の注意を払わないといけません。

メンドクサ…。褒めてるのに失礼に当たるってどういうことよ…。まあ分かるんですけど。

そのメンドクサさと関係あるかな、と思うのが『枕草子』の以下の章段です。


【原文】
さかしきもの。
今様の三歳児。ちごの祈りし、腹などとる女。
ものの具ども請ひ出でて、祈り物作る。
紙をあまたおし重ねて、いと鈍き刀して切るさまは、一重だに断つべくもあらぬに、
さる物の具となりにければ、おのが口をさへ引きゆがめておし切り、
目多かるものどもして、かけ竹うち割りなどして、いと神々しうしたてて、
うちふるひ祈ることども、いとさかし。
かつは「なにの宮、その殿の若君、いみじうおはせしを、
掻い拭ひたるやうにやめ奉りたりしかば、禄を多く賜りしこと。
その人かの人召したりけれど、験なかりければ、今に女をなむ召す。
御徳をなむ見る」など語り出づる顔もあやし。
下衆の家の女主。痴れたる者、それしもさかしうて、まことにさかしき人を教へなどすかし。


【語句】
◯「さかし」
スーパー重要語。「賢し」と書く。①利口だ利口ぶっている小賢しい、などの意味がある。

◯「ちごの祈りし、腹などとる女」
「ちごの祈り」は稚児のための祈祷。「腹をとる女」は「腹をさする女」。

◯「目多かるもの」
ノコギリのこととされている。「目」は連続する物と物の隙間を言うので、連続する刃の隙間が多い=ノコギリということか。

◯「験」読み:しるし
スーパー重要語。効果、の意味。

◯「御徳をなむ見る」
「徳」には「おかげ」の意味がある。


ということで。

清少納言ちゃんが思う「小賢しい/生意気/利口ぶっている」ものについて。

すべて、善意が否定される格好です。

 

工エエェ(゚〇゚;) ェエエ工!?

 

分かるんですよ、清少納言ちゃんの言いたいこと。

分かるんですけど、厳しいなあ、って思います。

転んで泣いている子どもに「いたいのいたいの飛んでけー」ってやってるオバチャンを見ると(最近見ない)、微笑ましい時とイラっとする時があります(笑)

最後の例は、状況こそ違えど、自分も物を教える職業だし、リアルに実感するものがあります。

相手が分かっていることを、大げさにもったいぶって教えることほどみっともないものはありません。

もちろん、マンツーマンで教えているわけではないので、避けられないことはありますけど。

まったく別の観点ですが、教えすぎないで考えさせることも大事です。

― とかくに人の世は住みにくい ―

確かに。

では最後に現代語訳を載っけておきませう。


【現代語訳】
こざかしいもの。
今時の三歳児。腹痛で苦しむ幼児の祈祷をし、腹をさする女。
祈祷に使う物を作るのに何かを頼んで出してもらい、祈祷の道具を作る。
紙をたくさん重ねて、とても鈍い刀で切る様子は、一枚でさえ切れそうにもないのに、
それに相応しい道具とされていたので、自分の口をゆがめて強引に切り、
刃の多いものなどでかけ竹を割るなどして、とても神々しくしつらえて、
声もふるわせて祈祷することなども、とてもこざかしい。
また一方で「何とかの宮、誰それの殿の若君が非常に病で苦しんでいらっしゃったのを、
拭い去るかのようにさっと祓って治したので、褒美を多くいただいたことです。
その人、あの人などお呼びになったけど、効果がなかったので今だに女の私をお呼びになります。
おかげさまで」などと語り出す顔も異様だ。
賤しい家の女主人。愚かな人、そういうのに限って利口ぶり、本当に賢い人を教えたりすることよ。

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