枕草子~五月御精進のころ~(5)


~前回までのあらすじ~

1)五月、雨の日が続いてすることもないのでホトトギスの鳴き声でも聞きに行こう、と出かけることにしまちた。

2)明順さんの家に寄ってホトトギスを聞いて、それからお米を挽く所を見せてもらいまちた。

3)明順さん、お食事を出してくれまちた。でも雨が降ってきたので急いで帰ることになりまちた。

4)帰る途中、卯の花がたくさん咲いていたので車にたくさんさしまちた。せっかくなので誰かに見せたいと思って、藤原公信を呼んでみまちた。

さて、さっそくいってみましょう。


【原文】
「待つべきにもあらず」とて走らせて、土御門ざまへやるに、
いつのまにか装束きつらむ、帯は道のままに結ひて、「しばし、しばし」と追ひ来る。
供に、侍三、四人ばかり、物もはかで走るめり。
「とくやれ」と、いとどいそがして、土御門に行き着きぬるにぞ、
あへぎまどひておはして、この車のさまをいみじう笑ひ給ふ。
「うつつの人の乗りたるとなむ、さらに見えぬ。なほ下りて見よ」など笑ひ給へば、
供に走りつる人、ともに興じ笑ふ。
「歌はいかが、それ聞かむ」とのたまへば、
「今、御前に御覧ぜさせて後こそ」など言ふほどに雨まこと降りぬ。


【語釈】
◯「土御門」読み:つちみかど
大内裏の門の名称。上東門のこと。

◯「あへぎまどひて」
「あへぐ」は現代語の「あえぐ」と同じで、激しく呼吸を乱すこと。「動詞+まどふ」は「ひどく/しきりに~する」という意味になる。

◯「うつつの人」
「うつつ」は「現実」という意味が原義。ここでは転じて「正気」の意味。


【現代語訳】
私が「待たなくていいわ」と言って牛車を走らせて土御門の方へ向かわせると、
侍従殿はいつの間に装束を着たのか、帯は道すがら結って、「ちょっとちょっと!」と追ってきたの。
お供に家来が三、四人くらい、何も履かずに走ってくるみたい。
私は「急いでちょうだい!」といっそうせかして、土御門に着いてしまってから、
侍従殿はぜえぜえ言いながらいらして、この車の姿を見てお笑いになったわ。
「正気の人が乗っているとはとても見えませんな。あなた方も下りて見てみぃ」などとお笑いになるから、
お供に走ってきた人も一緒になって笑っていたわ。
侍従殿が「歌はどんな具合かね。それを聞こう」とおっしゃるので、
私は「これから中宮様に御覧に入れますから、その後で」なんて言ううちに雨が本降りになったの。


最近ふと思うんです。

どうして冬にこのシリーズの連載を始めたんだろう、って(笑)

まあ、いまやその時の心境は思い出せませんが。

ともあれ、短い外出でしたが、ようやっと宮中に帰還した作者たちでした。

枕草子~五月御精進のころ~(4)][ 枕草子~五月御精進のころ~(6)

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