源氏物語~帚木~(17)


と、憎たらしく言うものですから、腹が立って憎まれ口をさんざん言ってやりましたが、

女の方もおさまらない性格なもので、私の指を一本引き寄せて噛みついてきましたので、おおげさに騒ぎたてて、

『こんな傷までついてしまっては、みっともなくてもう宮仕えもできたものではない。

あなたは私の官位を馬鹿にしましたが、これではますます出世など望めたものではないな。

もう出家して仏門に入るしかないようだ』などと言って脅かして、

『では、今日であなたとの関係もおしまいみたいだな』と噛まれた指を痛そうに折り曲げながら出て行きました。

手を折りてあひ見しことを数ふればこれ一つやは君がうきふし
〔あなたとの生活を振り返って指折り数えると、あなたの苦々しいところはこれ一つだけではないよ〕

私を恨むことはできないでしょう』などと言ってやりましたところ、さすがに女も泣いて、

うきふしを心ひとつに数へきてこや君が手をわかるべき折
〔辛い悲しみを私ひとりの心の中で数えあげてきましたが、今こそ別れるべき時のようですね〕

などと言い争いましたが、本当のところ、私は今までと変わらずに関係が続くと思っておりまして、

数日が経つまで手紙も送らずふらふらと歩き回ってばかりいて、

賀茂の臨時祭りの楽器の練習をしているうちに夜が更けて、みぞれがしきりに降っている中、

皆とお別れしましたあとで、さて自分はどこへ行こうかと思い巡らすと、

やはり私が帰るべき家と思えるのはその女の所しかなかったのですよ。

宮中の泊まりこみも面白くないだろうし、気取った女の所も居心地が悪いのでは、と思いましたので、

あの女はどう思っているだろうかと、様子も見がてら雪を払いつつ例の女の家に向かいましたが、

何だかきまり悪くてモジモジしてしまうものの、まあ今夜で数日来の恨みは消えるだろうと思っておりましたところ、

火は壁に向けてかすかに灯し、分厚い着慣れた私の衣服を大きな伏せ籠に掛けて、

几帳の帷子などもちゃんと引き上げて、今夜あたり来るのでは、と私を待っている様子でした。

思った通りだといい気になったのですが、肝心の本人の姿はありません。

しかるべき女房だけがいて、今夜はご両親がいる実家に行かれました、と答えるのでした。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


あなたが噛んだ小指が痛い♪

っていうのとはまったく違いますね。笑

左馬の頭は完全に負け戦(?)の様相ですけどね。

当人はまだ勝つ気でいるようです。

次回、急展開をむかえてこのお話は終わりを迎えます。

 

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