源氏物語~帚木~(32)


光る君はくつろいで寝ることができずに、まるで蛇の生殺しだなとお思いになると目も覚めて、

北側の襖障子の向こうに人の気配がするのを、

「こっちか?さっきの話の女がいるのだろう。何とまあ」とお気持ちがひかれて静かに起き上がり、立ち聞きなさると、

先ほどの男の子の声で、

「ねえねえ、お姉様はどこにいらっしゃるの?」とかすれたかわいらしい声で言うと、

「ここに寝ていますよ。光る君様はお休みになったの?

どんなに近くにいらっしゃることか、と思ったけれど、意外とそうでもなかったわ」

声がしゃきっとしていないのは、今まで寝ていたのでしょう、男の子の声ととてもよく似通っているので、

やはり姉だと思ってお聞きになっておりました。

「庇の間にお休みになりましたよ。噂に聞いた高貴なお姿を拝見しました。噂通り、本当に素晴らしかったなあ」

とひそひそ声で言います。

「昼だったら私もこっそり覗いて拝見したのに」と眠たそうに言って、衣に顔を引き入れるようでした。

「おいおい、もっと何かあるだろう」と光る君は少しがっかりなお気持ちになるのでした。

男の子は「僕はここに寝ますね。暗いなあ」といって燈台を調整して明るくするようです。

女君はこの東庇の襖障子の出入り口、光る君の御寝所とははす向かいのあたりに寝ているようでした。

「中将の君はどこ?人が近くにいないと少し怖いわ」と女君が言ったようで、

長押の近くに横になっていた女房たちでしょうか、

「下の屋におりて湯浴みをしています。すぐに戻るとのことでした」と返事をしました。

※雰囲気を重んじた現代語訳となっております。


この部分は授業でも扱っている所なのです。

授業ではもっと直訳をしますけどね、もちろん。

 

さて、光源氏は紀伊の守の邸に方違えに来ているわけですが、東庇に仮の部屋を用意してもらったのでした。

で、東庇って??という方のために簡略化した図を作りました。

一番中心の部屋が「母屋もや」で、その外側四方を「庇ひさし」と言います。

東側の庇が東庇で、図のピンクの所です。

(ちなみに、一番外側のブルーの所は簀子と呼ばれ、いわゆる縁側のようなものです。)

 

そして光源氏が寝ている東庇の北側、襖障子を隔てた所に女君(空蝉)が寝ているようです。

弟と話をしている様子を光源氏が少し立ち聞きしているのが今回のシーンです。

眠くて弟の話を適当に切り上げようとする女君に 【#・∀・】 ってなる光源氏がちょっと面白いですね。笑

 

弟は暗いのが嫌だったので燈台を調整します。

燈台はこちらに写真が載っていますのでご覧あそばせ。

写真の右側にヒモが数本垂れ下がっていますが、これが「灯心」です。

この灯心を調整して明るくすることを「火かかぐ」と言います。

今回も本文は「火かかげなどすべし。」となっています。

そして灯心はこちらに詳しく説明と写真が掲載されていますので、こちらも是非。

 

それから、中将の君というのは空蝉に仕える女房の名前です。

 

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